Eric Sink on the Business of Software
「小さなISV」を経営するとはどういうことなのかという点について分かりやすく書かれている。とても面白かった。
Eric Sink on the Business of Software 革新的ソフトウェア企業の作り方
- 作者: Eric Sink,エリック・シンク,青木靖
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2008/09/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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以下、自分への読書メモとして残しておく。
「小さなISV」が目指すべきニッチマーケットについて、著者は次のように例えている。
「ソフトウエア製品のあらゆる可能性を見出すというのは、樽を石で満たすことに似ている。オフィススイートやデスクトップオペレーティングシステムみたいなすごく大きな石からはめる。樽はすぐにいっぱいになって、それ以上大きな石は入らなくなる。しかしもっと小さな石であれば簡単に入れることが出来る。実際、樽をすっかり満たすためには、ものすごくたくさんの小さな石を入れる必要があるだろう。」
そして、この小さなチャンスを私たちが追いかけていない理由として次のように分析している。
1.私たちはそれをみたいと思わない。
- ニッチマーケットセグメントが目に入らないのはに私たちがそれに注意を向けないからだ。
2.小さな会社じゃ誰も褒めてくれない。
- 小さなソフトウエア会社はクールじゃない。メディアは小さなソフトウエア会社の話なんか取り上げない・・・・・
3.私たちはすべてを白か黒かで見ている。
- 私たちが新製品のアイデアについてその可能性を議論するとき、それは売れるか売れないかのどちらかだと考えやすい。しかしマーケットはそんはふうになっているわけではない。
この本は、Blogのエッセイをまとめたものだが、起業家、人、マーケティング、セールスという4部に分けて構成されている。それぞれ気に入った部分を抜粋しておく。
第1部:起業家
筆者のあるプロジェクトでの失敗から得た教訓というのが考えさせられる内容である。
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- 固定価格のプロジェクトには注意しよう。
- 先端的すぎる技術には注意しよう。
- 小さなISVはソフトウエアに集中すべきであり、不動産には手を出さないことだ。
- 投資家は利益率の低いビジネスを好まない。
- 競合のいないマーケットは存在しない。
- 中間業者という言葉のもつネガティブな含意は、しばしばふさわしいものだ。
- 契約はすべて弁護士にレビューしてもらう必要がある。例外はない。
- お金は顧客からながれてくるものであって、顧客へと流れていくものではない。
- 小さなISVはアプリケーションを作るべきであり、プラットフォームを作ろうとはしないことだ。
第2部:人
小さなISVでは、プログラマではなく開発者を必要とする。すごいハッカーというのはソフトウエア開発では重要であるが、採用する上では次の点を考慮する必要がある。
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- ユーザーに気にかける人を雇う。
- 仕事と趣味の区別がつく人を雇う。
- 製品の成功のためにさまざまな面で貢献する人を雇う。
第3部:マーケティング
小さなISVが目指すべき製品のポジショニングをどうとらえるか。競合の存在、マーケットの規模など。
そして参考となる例として、「キャズム」(ジェフリー・ムーア著)についてもまとめられている。やはり「キャズム」はISVにおいてもどうやって超えていくかを考えていく必要がある。
第4部:セールス
小さなISVが顧客に信頼を示す8つの方法:
また、筆者は小さなISVでは専任営業(セールスガイ)を1人も持たないというのも理にかなった選択であるという。顧客が製品を購入する前には次のような「ギャップ」が存在する。
製品←−−−−→顧客
ビジネスを存続させるためにはギャップを埋めていく必要がある。ギャップを埋める方法は次の2つ。
- 製品を右に動かす(製品を顧客のニーズに近づける)
- 顧客を左に動かす(専任営業による積極的なセールス活動)
小さなISVにとって顧客を左に動かすといういわゆるセールスガイによる営業活動は必ずしも必要なないかもしれないということ。
製品のポジショニングについては、冒頭の日本語版への序文にいい言葉が書かれている。
- あなたの製品は、1つ大きな点で違っている必要がある。他の製品と競合するとき、あなたの製品は1つ重要な点において他の製品より優れている必要がある。
- あなたの製品は、完全に違うものであってはならない。あなたの製品に似た物が世間にまったくみあたらず、競合がいたにのであれば、あなたの製品は大成功するか大失敗するかのいずれかだ。そして後者の結果になる可能性が高い。
- エキサイティングであることと収入とはしばしば逆相関している。誰しも一番エキサイティングなマーケットを追いかけたいと思う。しかし最も高収益な未ジネスは、エキサイティングとは対極のものであることが多い。
既にある程度の規模の外資系ソフトウエア企業で15年以上勤務してきた自分にとって「小さなISV」というのは、今後の自分の将来において重要なキーワードになりそうである。
著者のBlogに本書のベースとなったアーティクルが多く掲載されている。原文も分かりやすくて面白いBlogである。
Eric SinkのBlog Page: http://www.ericsink.com/